最近、若い建築家を中心に、建築家の職能を広げていく動きが随所に見られます。
もはや建築は、ただデザイン性の高い建物をつくるだけで終わりの時代ではなくなっているのです。
では、どんな風に建築家たちは職能を広げているのでしょうか?
建築分野の職種にいる方、あるいは進もうとしている方は、こういう方々の取り組みを少しでも理解しておくことで、自分の進むべき道が見えてくると思います。
ってことで、ちょっくら整理してみます。
馬場正尊
1968年佐賀県生まれ。建築家/Open A ltd.代表取締役/東京R不動産ディレクター
早稲田大学理工学部建築学科卒業後、博報堂へ入社。博覧会やショールームの企画等に従事。その後早稲田大学大学院博士課程へ復学、建築とサブカルチャーをつなぐ雑誌『A』編集長を務める。2003年、建築設計事務所Open Aを設立。個人住宅の設計から商業施設のリノベーション・コンバージョン、都市計画まで幅広く手がける。東京R不動産では編集・制作面を担当し月間300万PVの人気サイトに育て上げる。東北芸術工科大学准教授を務めるほか、イベント・セミナー講師など多方面で活躍。『だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル』(ダイヤモンド社)、『都市をリノベーション』(NTT出版)、『団地に住もう! 東京R不動産』(日経BP社)、『「新しい郊外」の家』(太田出版)、など著書多数
出典:馬場正尊 / 建築家 世の中をよりよく変える仕事と働き方[前編] | WAVE+
言わずもがな、不動産サイトで知られる東京R不動産でディレクターをしている傍、Open Aという設計事務所で代表をやっている馬場さん。
彼は、設計以外にも東京R不動産というメディア業の方面で、職能を広げている建築家の一人です。
東京R不動産以上のメディアを抱えている建築家は、ぼくが知る限りいません。
東京R不動産は、立地と家賃だけで、判断されがちな世の中、多少不便だけどキラリと光る物件を紹介しているサイトです。
こういうメディアを持っていると、たとえば多少古くて、不便な立地にあるけど、環境が豊かで、デザインも可愛らしい団地再生なんかと相性がよくて、自身のメディア力と設計力を掛け合わせて、団地再生の仕事をとってきたりしています。
たとえば、こういうプロジェクト
京都「堀川団地再生プロジェクト」DIY実験住戸が完成!内覧会に行ってきた | スーモジャーナル - 住まい・暮らしのニュース・コラムサイト
団地再生の系の仕事って、割と実績が重視されがちで、なかなか新規に参入しづらい面があったりしますが、単なるリノベーション・設計業だけでなく、R不動産という一大不動産メディアを持っていた馬場さんだからこそ、こういう仕事も舞い込んできたのだと、ぼくは思います。
そんな馬場さんの本もオススメ!
大島芳彦
1970年東京都生まれ。1998年石本建築事務所入社。2000年よりブルースタジオにてリノベーションをテーマに建築設計、コンサルティングを展開。活動域はデザインに留まらず不動産流通、マーケティング、ブランディングなど多岐にわたる。大規模都市型コンバージョンや大規模団地再生プロジェクトなどを手掛ける一方で、エンドユーザー向けに物件探しからはじめる個人邸リノベーションサービスも多数展開。近年では地域再生のコンサルティング、講演活動で全国各地に足を運ぶ。リノベーションスクールでの実績により「日本建築学会賞教育賞」を受賞。
大島さんは建築設計の他にも、自らも大家もやるなど、不動産流通にも手を伸ばしています。
また、自社にメディア専門の舞台もあるなど、メディア力にも長けている。
というのも、ブルースタジオの社長の大地山さんがもともと広告・デザイン業界の出身で、そういう面に長けているから。
というか、こんなにブルースタジオの顔として、出ている大島さんが社長ではなかったってご存知でしたか?意外に思われる方も多いようです。
また、プロフェッショナルにも取り上げられてましたが、最近では、建物のリノベーションだけでなく、まちのリノベーションにも手を伸ばしています。
最近は色々な地域でリノベーションスクールが開催されていますが、どこにでもいるよね、この人。大島さんは3人いるという噂がまことしやかに囁かれているとか、いないとか。
自分でもリスクをとって、事業を起こしていたりするので、本当に建築家?というくらい色々なことをしています。
こんなところなんだよぼくらブルースタジオが現地法人立ち上げて来春オープンする【YUKUSAおおすみ海の学校】は。
— 大島 芳彦 (@yoshi_oshima) 2017年10月13日
立ち上げメンバー募集中!https://t.co/bANZ60joh4
これなんか、鹿児島県鹿屋市で廃校を買って、リノベするそう。リスク高いことすんなー。まじすごい。
そんな大島さんですが、こちらの本は彼の考えの一端が知れるかも!
藤村龍至
1976年東京生まれ。2008年東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。2005年より藤村龍至建築設計事務所(現RFA)主宰。2010年より東洋大学専任講師。2016年より東京藝術大学准教授。建築設計やその教育、批評に加え、公共施設の老朽化と 財政問題を背景とした住民参加型のシティマネジメントや、日本列島の将来像の提言など、広く社会に開かれたプロジェ クトも展開している。
主な建築作品に「OM TERRACE」(2017)「鶴ヶ島太陽光発電所環境教育施設」(2014)「APARTMENT N」(2014)「家の家」(2012)「小屋の家」(2011)「倉庫の家」(2011)「東京郊外の家」(2009)「BUILDING K」(2008)。
出典:RFA | RFA
藤村さんはNHKの「ニッポンのジレンマ」等、メディアにも割と出ていたり、とにかくtwitterの投稿が多いので、いろいろとお考えを知れる機会が多いのだけど、本当にこの人の考え方、思考は色々と参考になるし、刺激になります。
正直、藤村さんの建築自体はあまり好きでないものが多いのですが、彼がやっている鶴ヶ島プロジェクトやアーバンデザインセンター大宮などはとても参考になるものです。
建築だけでなく、都市計画・まちづくりの分野にも手を広げ、またその都市計画を行う上でのスキーム、プロセスはまさに東京工業大学の社会工学(都市計画等を学ぶ専攻)から建築に進んだ彼自身の歩みからくるものです。
彼ほどに、住民の合意形成プロセス等、まちづくりの進め方等について体系立ててまとめている建築家はいないので、一度本を読んでみることをおすすめします。
西村浩
1967年佐賀県生まれ。東京大学工学部土木工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、1999年にワークヴィジョンズ一級建築士事務所を設立。土木出身ながら建築の世界で独立し、現在は、都市再生戦略の立案からはじまり、建築・リノベーション・土木分野の企画・設計に加えて、まちづくりのディレクションからコワーキングスペースの運営までを意欲的に実践する。
日本建築学会賞(作品)、土木学会デザイン賞、BCS賞、ブルネル賞、アルカシア建築賞、公共建築賞 他多数受賞。2009年に竣工した、北海道岩見沢市の「岩見沢複合駅舎」は、2009年度グッドデザイン賞大賞を受賞。
西村さんを一躍有名にしたのは、なんと言ってもこの事例でしょう。
これは何もかっこいいコンテナをつくったからいいというわけではありません。
なんの変哲も無い駐車場や空き地を市民と一緒に原っぱにして、そのなかの1つのコンテンツとしてコンテナを置き、まちに賑わいを取り戻したというもの。
詳しくは以下の記事やそのほかググってほしいのだけど、これ佐賀市の社会実験で行っているところがまたすごい。佐賀市という行政を巻き込んで、結構お金も出せているんですよね。それに自分でも色々とリスクをとっている。
行政をなぜ巻き込めたかというと、このコンテナを設置する前に、「街なか再生計画」という上位計画づくりに西村さんは関わっているんですよね。そこにすでにコンテナ活用を位置付けてしまっているところが、元都市計画コンサルとしては面白いところだと思っています。
また、さらにリスクをとって、この地域一帯に不動産を持ち始めていて、
コンテナまた使って、こんなコワーキングスペースつくったり、
マチノシゴトバ COTOCO215 | 佐賀市呉服元町にあるコワーキングスペース&シェアオフィス
その隣に、こんなものもつくっちゃったり、
ON THE ROOF - creative complex | creative complex
もはや不動産屋さんですよ。建築家ですよ?この方。
西村さんの本は、とくにないので、色々とネット記事漁ってみてくださいな。
彼の取り組みは本当に面白いです。
谷尻誠
1974年広島県生まれ。94年穴吹デザイン専門学校卒業後、設計事務所勤務を経て、2000年建築設計事務所Suppose design office設立。建築をベースとして、新しい考え方や、新しい建もの、新しい関係を発見し、常に目の前にある状況で、見つけることが可能な新しさを提案し続けている。現在、穴吹デザイン専門学校非常勤講師、広島女学院大学 客員教授を務める。
出典:谷尻誠インタビュー | デザイン家具のDIYキット販売 MaKeT(マケット)
最後はこの人。ファッションやらインテリアやら自転車やら、建築以外でも最近色々なメディアに出てますよね。
最近では不動産業をはじめたり、飲食業もはじめたりしています。
彼の建築やリノベーション物件は、どれもセンスがよくて、僕も好きなのですが、そのデザインセンスもさることながら、こうして建築以外の分野にも手広く幅を広げているのは、今後の建築家の生き方として、とても参考になりますよね。
また、どこぞこの有名建築家に師事していたわけではなく、専門学校の出身からここまで著名な建築家になったのは、本当にすごい。頭がさがる思いです。
そんな谷尻さんのセンスを感じたい方は、こちらの本をどうぞ。
★★★
こういうアトリエ事務所の建築家の動きをみて、大手〜中堅の設計事務所やコンサルタント事務所にいる方々は、自分たちは関係ないやと思っていたら、大間違いです。
いい加減、TVのコメンテーター的な仕事に満足していて、いいのですか?とぼくは問いたい。
これまで通りに、実践を伴わない、何かの本で聞きかじった知識や事例集めで満足していると、こんなことを言われてしまいます。
今後、生き残るのコンサルや建築家は、「実践」し、そこでの経験を「蓄積」「検証」し、それをコンサルや自身の設計に活かしたり、つなげたりすることが大切なんだと、強く思います。
そんな感じ!
それではっ!