前回の記事の続きだよ!
ぼくは、多くの高齢者福祉施設の施設長たちのお話を聞いて、「便利」と「不便」は表裏一体ということを感じた。
便利さを追求しすぎることは、反対に何かすごく大切なことを忘れていってる気がする。
過剰なバリアフリーもまたその1つだと思う。
ふと、思い出す。以前、何かのニュースで皇太子様だったと思うのだが、こんなことを言っていた。
「国が医療の発達を推し進めてきた結果、寿命は延びたけれど、その結果増えすぎたお年寄りを今度は世の中が問題として扱っていることはすごく悲しいことだと思います。」
確かにその通りだと思った。
便利さを追求していく結果どんな世の中になるのかな?
最近はそんなことを考えてしまう。
まあ、そんなこんなで介護の実情を垣間見て、主にバリアフリーという当たり前に必要だと思ってきた概念について考えたわけだけど、じゃあバリアフリーをなくせるか?といったら現状なかなかそうはいかない。
ざっくりと高齢者福祉施設の種類
そもそも、最近の介護施設は大きく分けると
もう施設に入居しちゃってそこで暮らすことがメインとなる施設(特養や有料老人ホーム、グループホームなど)
あくまで在宅介護を支援するための施設(デイサービス、小規模多機能施設など)
の2つに分けられる。
環境って大事だと思いませんか?
人それぞれではあるとは思うけど、ぼくが80過ぎのおじいちゃんになったら
間違いなく後者の施設(在宅支援の施設)に入りたいと思う。(ぼく一人の意思では決められないことだけど)
普通に考えて、80過ぎて今まで慣れ親しんだ家から、下手したら街からも追い出されるなんて嫌だ。
絶対無理。
まったく訳のわからん所、土地勘もないような場所でボケた高齢者しかいない施設で暮らせ!なんて言われたら、ぼくだったら発狂してしまう。
結局、問題と言われている、高齢者の徘徊や感情の不安定、大声って環境の変化から来ることもあるのではないか?
環境(建築)ってすっごい人に影響を与えうるものなんじゃないか?
そう思うわけです。
アットホーム化したい高齢者福祉施設
とまあ、似たようなことを考える人はいるわけで、実際高齢者福祉施設は最近では「住宅」に近い施設、アットホーム感を演出する施設ってのは結構ある。
つまり、病院のようなTHE施設!って感じの施設に、いきなり入れられたら、誰だってたまったもんじゃないだろうってことで、なるべく住宅に近いものをつくり、環境の変化からうけるストレスを極力避けていこうっていう流れが出てきている。
実際、いかにも施設らしい施設(病院みたいな)では高齢者の問題行動であったり施設に入る時になぜか足が止まって、入ろうとしないなんてことがみられるけど
住宅らしい施設ではそれがみられにくいといことがあったりすると聞く。
ぼくが何回か訪れた古民家を改修して、福祉施設にしているところでは、高齢者の方が勝手に住宅の雰囲気(柱や梁)を見て、過去のことを思い出して、話してくれたり、少し不便な古民家での暮らしになれたりして、認知症が改善した!要介護認定が下がった!なんて話も聞いた。
これは、別にトンデモ理論でもなんでもなくて、実際に「回想法」という心理療法の一種としていろいろと研究されてるんですよね。
施設の「住宅化」にまつわる課題
この施設の「住宅化」っていうのは
入居する施設と在宅支援のための施設、両者でみられるんだけど、行政の基準通りバリアフリーにしまくっていくと、施設っぽくなってしまう。という弊害がある。
このあまりに過剰なバリアフリーはその施設の住宅らしい雰囲気を失わせる傾向にあるというのは、過剰なバリアフリーが本当に必要?という前回の記事で整理した疑問にもつながる重要なこと。
また、在宅支援の施設に限っていうと、そんなにめっちゃバリアフリーでいいのか?っていう疑問もでてくる。
だって自宅がそんな完全にバリアフリーになってる家なんて滅多にない。
昼間は家族が仕事で見られないから、施設に預ける。
そこで自宅とかけ離れたしつらえの環境(完全なるバリアフリー)に入れられたら、高齢者も戸惑うし、バリアがなく快適に過ごせてしまうため、前回の記事で書いたように自分の体に残されている残存能力の活用にもならず、結果、施設よりバリアフリーになっていない自宅で生活するのを難しくするんじゃないか。
っていう意見を仰る施設長も実際にいた。
けど、なかなかつくるのが難しい「住宅」に近い高齢者福祉施設
しかし、現在はどうしても過剰なバリアフリーな施設が多かったりする。
というのはバリアフリーがしっかりしていないと行政が福祉施設として認可してくれないのだ。
こういう基準が厳しいのは、
あんまりバリアフリーになっていない施設を認可して後々問題が起こった時に面倒だな。とりあえず、当たり障りないしバリアフリーじゃなきゃダメってことにしよう!
少なからずこういうマインドが元になっていると思うんだけど、下記のような弊害が出てくる可能性もあるわけ。
バリアフリーにすることはその分費用がかかる。
⇓
福祉施設を開設したいけどお金がなく施設を開設できない人が増える。
⇓
無届施設がでてくる(お金がないから、普通の住宅の空き家を使ってたりする)
⇓
一部の悪徳無届施設やちょっと事故を起こしてしまった施設が明らかになると、マスコミ等が「こんなもん放置して、何してんだ!」と叩く
⇓
バリアフリーの基準や施設の基準がより厳しくなる。善意で事業を行っていた無届施設も規制されるようになる。
まさにバリアフリースパイラル!!
何年も前ですが、無届の高齢者福祉施設が火事になって、社会的に問題になったこともありましたね。
こういう事故が起こると無届施設という存在自体が悪いように取り沙汰されるけど、実際善意で高齢者介護の事業を行いたいけど、行政に届け出ると、いろいろな規制が厳しく、それだけ施設を施設らしく整えなくてはならなくなって、初期投資がべらぼうにかかってしまうから、無届で事業を行うしかない!という判断のもと、事業をしている人も多くいるんです。
そして、こういう施設があったからこそ、施設への入所待機高齢者の受け皿にもなっていたわけです。(そして、そのことが行政もわかっていたからこそ、無届施設を放置していた背景もあるわけ)
★★★
前回の記事や、上にも書いたように、バリアフリーの基準を守ることが本当に高齢者にとって良いのか、どうかというのは、現場レベルから見ると結構な疑問があったりするので、行政をはじめ、空間設計に関わる人には是非とも問い直して欲しいと思う。
バリアフリーの基準に達していなくとも、介護の仕方(その施設独自のマニュアル)や人員配置、人材育成など、バリアフリーに代わる何かを示すことができれば、特例でその施設を認可する、そんな基準があったって良いのではないのか?
そんなことを切実に思うわけです!
おしまい!