18歳の未成年の少年が無免許運転で通学中の子どもを誤って轢き殺した。
このようなニュースを見たら、あなたはどのように感じるでしょうか。
未成年とか関係ない。こんな悪質な事件を起こしたのだから、死刑にすべき!
無免許運転とかふざけるな!18歳なんて善悪の区別がつく年齢なんだから、しっかりと罰を受けるべきだ!
小さな子どもの命を奪って、何なんだ!
当事者でもないのに、怒りがこみ上げてくるかもしれません。
怒りまでとはいわなくとも、こんな事件を犯しておいて何も罪に咎められず、名前も公表されず、少年院で適当に過ごして、出所後は普通に暮らすなんて、何だか腑に落ちない。
と多くの人は思うと思います。
ただ、どうでしょうか?
例えば、この少年の家庭環境が
母親は不倫をして、何も言わずに家を出ていき、ずっと父親に育てられたが、酒とタバコ、ギャンブル三昧の父親からはロクに教育も受けさせてもらえず、機嫌が悪いと暴力を振るわれる。
そんな家庭環境で育った子だったらどうでしょうか?
さらに、そんな家庭環境に恵まれない中でも、その青年はこれまで大きくグレずに、穏やかな性格に育っていったが、何分教育にお金はかけてもらえなかったため、あまり柄の良くない高校に通うことになり、そこで不良にこき使われていた。
穏やかな性格の青年は、不良にこき使われても、「自分が我慢していれば、波風立てずに済む」といった思いから、不良たちの言う事を聞いていた。
事故を起こした当日も、無免許運転は悪い事とは思いつつも、その不良たちにアゴで使われ、運転を強要されたがために、断れもせずに、慣れない運転をしていて、アクセルとブレーキを間違え、事故を起こしてしまった。
なんて、背景があったらどうでしょうか?
もちろん、どのような背景があろうとも、犯した罪は大きいです。
そんなの断れなかった青年が悪いと言われてしまえば、それまででしょう。
けど、青年が事故を起こしてしまったのは、許されることではないけど、ただ、許してあげたい気持ちも一方で出てきませんか?
また、轢き殺したのが子どもではなく、会社でセクハラ、パワハラしまくっているオッサンだったらどうでしょうか。
そのオッサンは、DV加害者でもあり、妻や娘にも逃げられたどうしようもない人だったら?
ぼくたちが、普段ニュースで目にする、耳にする事件は、その事件のほんの少しの断片的な部分とそれに対するしょうもないコメンテーターの意見だけです。
事件を起こした加害者の背景や被害者の背景を知ることはできません。
別に根掘り葉掘り知りたいとも思わないけど。
ただ、実際は加害者や被害者にもさまざまな背景があって、その背景によっては、簡単に善悪で、白黒で分けることができないことってあると思うんです。
というか、現実のほとんどのことは善と悪で分けられないことがほとんどです。
この小説は、未成年の犯罪をテーマに扱いつつ、家裁の調査官であるクソ真面目な武藤という人物の目線から善と悪とは何か?ということを訴えかけます。
けど、そんな重くしようと思えば、いくらでも重くできるようなテーマで、そこはさすがに伊坂さん。
こんなテーマにもかかわらず、まあ軽やかで、テンポ良く、そして笑える物語になっているんです。
その軽やかさを支えているのが、伊坂小説の中でも随一の人気キャラ陣内です。
陣内は家裁調査官という非行少年の処分を決める一見お堅い職業にいながらも、身勝手で、思ったことをそのまま口にして、自信過剰、負けず嫌い、形式にとらわれず、変なことにこだわりを持っているけど、「面倒臭い」が口癖で、ジャズ演奏家のチャールズ・ミンガスみたいな、、、とにかくこんなやつ周りにいたら確実に面倒臭そうと思わせる、けど傍目から見ていると憎めない。そんなキャラ。
そんな陣内が「19歳の未成年が無免許運転で歩いていたおじさんを轢き殺した」事件をどのように扱うのか。
小説は上記の事件を軸に、その未成年の過去、友人、家族などのあらゆる面から未成年の背景を陣内とその部下のクソ真面目な武藤が掘り下げていき、合間合間に武藤が抱える他の事件を起こした未成年や陣内が過去に関わった未成年などが関わり、展開していきます。
最初は別々の事案のように思えるのですが、ここは伊坂さんの真骨頂!見事なまでに伏線が回収され、それぞれの事案がひとつに収束していきます。
ただ、まあそれにしても、陣内というキャラは本当に魅力的。この『サブマリン』の前作である『チルドレン』でもそうだけど、この小説はやはり陣内というキャラが全てと言っても良い。
たとえば、ぼくがこの小説で陣内の言葉で印象に残ったもの、いっぱいあるんだけど、
ひょんなところから通学中の小学生を襲おうとした男を捕まえた時に、
「おまえに何がわかるんだよ、と言いたいのか?あのな、俺はしょっちゅう、それ言われてるんだよ。事件を起こした少年たちにな、『分からねえくせに、言うんじゃねえよ』と言われてばっかりだ。給料もらって、その台詞を言われるプロみたいなもんだ。百も承知でな。実際、俺はな、おまえのことは分からねえよ。興味もさほどねえよ。あ、ただな、前から気になっていたんだ。自暴自棄になって、こういう事件を起こす奴はどうして、子供だとか弱い奴らを狙うんだ?どうせ人生を捨てるつもりで、暴れるなら、もっと強そうで悪そうな奴をどうにかしようと思わねえのか?これは別に茶化してるわかじぇねえぞ。本当に気になるんだよ。別に正義の味方になれ、とは思わねえけど、どうせなら酷い悪人退治に乗り出す方が、いろいろと逆転できそうじゃねえか」
とか、痺れましたね〜
かっこいい!
そして、最後にこの小学生を襲おうとした男に言うんです。
「全力で何かやれよ。全力投球してきた球なら、バッターは全力で振ってくる。全力投球を馬鹿にしてくる奴がいたら、そいつが逃げているだけだ」
ん〜!!いい言葉です!
こんなかっこいいことを言う一面もありながら、
陣内:「でな、弘法筆を選ばず、ってのは、弘法は字がうまいが、筆を選んだりしなかったという格言だろ」
武藤:「達人は道具に頼らない、ということですよね」
陣内:「どうやら、それが違っていたんだと」
武藤:「違っていた?」
陣内:「弘法は筆をそこそこ選んでいたらしいぞ」
武藤:「え」
陣内:「どちらかといえば、いい筆じゃないと書けない!みたいなタイプだったんだろうな」
っていう適当なこともよく言っている。
でも、この陣内と武藤の掛け合いはいちいち面白い。
読んでいる途中、何回も笑えました。こんなに笑える小説もめずらしい。
けど、そんな魅力的な陣内というキャラを描いているのに、びっくりすることが!?
──伊坂さんの小説は、往々にしてプロットが錯綜していることが多いと思うんですね。今回の『サブマリン』も、相当プロットが凝っている。その最初の書き直されている頃から、今回の小説全体の構造は決まっていたんですか。あるいは、書きながら決めていったんですか。
伊坂:今回は、決まっていました。最後の部分まで。
僕は、実は、あまりキャラクターに興味がないんですよ。よく誤解されるんですが。 プロットや構造をつくったあとに、書き始めて、登場人物に名前をつける段階になって、単なる棒人形じゃつまらなくて、それで、仕方がなく、人物造形を肉付けしていくような具合なんですね。
─え!? そうは全然思えないですよ!
伊坂:読者の方たちは登場人物表とか人物連関表とかを作っているように思ってくれているようなんですが、実際はそういうことはほとんどなくて。はじめはとにかく、物語の構造や展開を考えるんですよね。キャラクターはあまり関係ないというか。しょうがないから考えるというか(笑)。
ただ、この作品の、陣内とか永瀬とかの雰囲気は、わりと好きだったんですよね。 思い入れのない僕のなかでは、という意味ですけれど。あの空気感、というか。
出典:講談社BOOK倶楽部HP 「伊坂幸太郎スペシャルインタビュー」
http://news.kodansha.co.jp/20160329_b01
伊坂さん、そんなにキャラ重視してなかったんだ。。。
伊坂小説に出てくるキャラは本当に魅力的な人が多いんだけどな〜
重視していないのに、こういう魅力的なキャラを描けるのは、伊坂さんの人間味が素晴らしいからなのか?
ちなみに、チルドレンでも登場していた盲目の永瀬やその恋人の優子も登場します。伊坂さんは、他の小説で出していたキャラをまた良い感じに使ってくるから憎いですよね!ファンにはたまりません♪
さて、この小説、もう1つ面白い取り組みをしています。
それがこちら!
サブマリンでは、チャールズ・ミンガスやローランド・カークなどのジャズ奏者の話がたくさん出てきます。
この小説見ていると、ジャズをたくさん聴きたくなる。
そこで、この取り組みですよ!
いや、チャールズ・ミンガスやローランド・カークが演奏している曲をお届けするかはわかりませんよ。
ただ、伊坂さんがどんな曲をセレクトして贈ってもらえるのか?
小説読んで、速攻で応募しました。
期限は平成28年5月30日までです!
抽選で1000名に当たるみたい。
あ〜当たらないかな〜当たれ〜
ぜひ、それまでに買って、応募してくださいね!