ものまちぐらし

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設計事務所で働く、都市計画コンサルタント兼一級建築士。まちづくりのことや激務の中でのちょっとした生活の楽しみについて書いてます。

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まちづくりに関わる人は必読!「具体と抽象」ー世界が変わって見える知性のしくみ

まちづくりをしている人、これからまちづくりをしたい人に是非おすすめしたい、この一冊を紹介します。

 

この本を読んでもらいたいのは、まちづくりをしている人だけでなく

 

・建築を学んでいる人

・周りとうまいこと話が噛み合わないことが多い人

・ワークショップなどを行い、いろいろな方の意見を聞いている人

 

なんかにもおすすめです。

 

 

「具体と抽象」

 

このタイトルが表すように具体と抽象の対立概念について本では書かれています。

 

「具体」というと、何かわかりやすくて、とても実践的な言葉のように感じます。

 

一方で、「抽象」というと、なんだかわかりにくいイメージ。

もっと「具体的に話して!」と言われてしまう。そんな、なんとなくあまりよくないイメージを持たれる方も多いでしょう。

 

本書では、この「抽象」がいかに人間の思考の上で大事な概念かを丁寧に解説しています。

これほど役に立ち、人間の思考の基本中の基本であり、人間を人間たらしめ、動物と決定的に異なる存在としている概念なのに、理解されないどころか否定的な文脈でしか用いられていないことは非常に残念なことです。

「抽象化を制するものは思考を制す」といっても過言ではないぐらいにこの抽象という概念には威力があり、具体と抽象の行き来を意識することで、間違いなく世界が変わってきます。

人間が頭を使って考える行為は、実はほどんどが何らかの形で「具体と抽象の往復」をしていることになります。つまり、「具体化」と「抽象化」が、人間しか持っていない頭脳的活動の根本にあるということなのです。

 

なんだか、この文読んでワクワクしてきませんか?

 

ワクワクする方は絶対に読んだ方が良い!

 

人間が動物と最も異なっている部分が「抽象化」できること

・・・言葉や数を操れることが、人間の知能の基本中の基本でしょう。言葉がなければ、コミュニケーションも知識の殿たちも不可能です。・・・

言葉と数を生み出すのに必要なのが、「複数のものをまとめて、1つのものとして扱う」という「抽象化」です。言い換えれば、抽象化を利用して人間が編み出したものの代表例が「数」と「言葉」です。

 

要はりんご3個、犬3匹、これらは「まとめて扱う」という「抽象化」を行っているからこそ、「3」という数が成立しますし、

りんご、バナナ、イチゴ、を「まとめて扱う」という「抽象化」を行い、「フルーツ」という1つ上の次元の言葉で表現することができます。

また、細かく考えると、この「りんご」、「バナナ」、「イチゴ」という言葉も「まとめて扱う」抽象化を行った言葉と捉えることもできます。

 

例えば、「まとめて扱う」という「抽象化」ができないことを想像すると、

「近所の◯◯というスーパーの入り口入って右に進んだ棚の中にあった、最も赤みを帯びていた青森県産のりんご」

「ネットスーパーで注文したセールになっていた3個入りの長野県産のりんご」

を「りんご」という言葉1つでまとめて扱うことができなく、とてつもなく大変なことになってしまいます。

 

いかに、人間の「抽象化」という能力がすごいか、よくわかると思います。

 

仕事やまちづくりで意識したい「上流」と「下流」

注意すべきは、上流の仕事(抽象レベル)から下流の仕事(具体レベル)へ移行していくにともない、仕事をスムーズに進めるために必要な観点が変わっていくということです。

 

上流の仕事は個人の作業から始まって、次第に参加者が増えていきます。上流で重要なのは個人の創造性で、下流で必要なのは、多数の人数が組織的に動くための効率性や秩序であり、そのための組織のマネジメントやチームワークといったものの重要性が相対的に上がっていきます。

上流では個性が重要視され、「いかにとがらせるか?」が重要なため、多数決による意思決定はなじみません。意思決定は、多数の人間が関われば関わるほど「無難」になっていくからです。

 

 

こんなにもぼくが普段思っていることを的確に言語化している文章をまさか、建築とは関係のない本で見ることになるとは!?

 

ってくらい、まちづくりに携わる人、特に行政マンには、ここを是非読んでほしい。

 

上流のこと、まちづくりで言うところの「まちづくりの方向性」や「土地利用のコンセプト」、「商店街活性化の方針」、「地区計画の素案」を住民参加で決めるとか、ナンセンスなんですよ。

 

ヒントはもらっても良いかもしれませんが、あらゆる意見を取り入れると、まさに「無難」になってしまう。

 

「とがらせる」ためには、個性が重要なので、できる限り少人数で決めるべきなんです。

 

そして「とがらせる」ことが、他自治体の差別化にもなり、今後の都市間競争に勝ち残っていけるのです。

 

 

抽象度の高い議論は難しいので、やらないほうがいい

そして、抽象度の高い議論ほど、難しいんですよ。

 

まちづくりを生業にしている人は、自然と業務を通じて、具体と抽象の検討を往復することが多いです。

抽象度の高い、まちやその地域、地区の方向性・方針から、

具体の土地利用、都市計画法建築基準法を見据えた建物計画などなど、

ひとつの業務の中でも、抽象度の高い作業・検討もあれば、

具体的な作業・検討もある。

 

自然と具体と抽象それぞれの思考ができる頭になってくるんです。

 

だから、あまり意識していないのですが、この思考、まちづくり以外の仕事をしている人には、難しい場合が多々あります。

 

なので、まちづくりの方向性などの抽象度の高い議論を住民参加なんかではじめようとすると、

 

「そんな抽象的な話は置いといて、もっと具体的な議論をしないと!」

「抽象的すぎて、何を言っているのかわかりづらい!」

 

なんて話が出てくるのが、結構多いんです。

 

だから、結局主催者側は半ば確信犯的に、抽象的な議論をなんとなくやって、住民を煙に巻いて議論(議論にもなってなかったりするけど)を終わらせてしまうのです。

 

 

住民参加するなら、具体的なもの

じゃあ、住民参加は意味がないのか?といったらそうではなくて、

もっと具体的な面で住民参加をすればいいんです。

例えば、上で挙げた、具体の土地利用とか建物計画とかです。

 

藤村龍至さんなんかも、大宮で公共施設計画を具体に何案も提示して、投票や意見をもらって、デザインをブラッシュアップしていく

 

なんてプロジェクトもしていましたが、こういうものの方が、住民参加は効果的です。

 

建築というのは、ひとりの作家のエゴ的な要素や作品的な要素が入りがちで、デザインだけなんとなく良くて、使いにくいなんてことがよくあり、それが日本における建築というものの地位が下がっているひとつの要因だと思う。

 

ただ、こういう住民参加をうまく使って、そこで出た意見をうまくデザインしていくことができれば、建築家ひとりの作品という枠を超えた、その建築家も思いもよらなかった人々から愛される建築ができあがると思うのです。

 

こういうデザイン能力は、これからの建築家に求められる職能のひとつだとぼくは思っています。

 

★★★★★★★★★★

 

この本を読むことで、「抽象」がいかに思考において大事なのかわかることができます。

 

ただ、なにより、人間の思考において「具体」と「抽象」というレベルがグラデーションのようにあるということを知るということは、人と意見を交わす際にかなり有効です。

 

相手が、どの「具体」と「抽象」というグラデーションの中でどこにいるのかということがわかり、かつそのレベルに合わせることができれば、究極的には全ての人とのコミュニケーションが円滑にいくからです。

 

現実的にはそんなにうまくいきませんが、そういうグラデーションがあることだけ知っておくだけでも、今後のコミュニケーションが図りやすそうです。

 

この1冊、是非おすすめです!